1.きみを忘れない~プロローグ~
2.薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク
作詞:さだまさし
作曲:さだまさし
庭と呼べない程の 狭い土地に母が
花の種を播いた 借家暮らしの2年目の春
父の仕事はうまくゆかず 祖母も寝ついた頃で
祈るような母の思いが やがて色とりどりに咲いた
学校の2階の廊下の窓から
見下ろすといつも 洗濯をする母が見えた
弟と僕が手を振れば母は
小さな妹と 笑顔で応えた
アマリリスの白い花 貧しかったはずだけれど
決して不幸などではなかった
あの日の あの青空
貸し本屋の帰り道 崖下の川のほとりに
ぽつりと咲くバラの花を 弟がみつけた
傷だらけでたどりつけば 待っていたかのように花は
根こそぎあっけなく 母への土産となった
その花は根づいて 僕らの希望のように
毎年少しずつ 紅い花を増やした
8つに増えた頃 愛する祖母を送り
僕は泣き続けて 生命を教わった
バラは十幾つになり 静かに風に揺れていた
どんなにつらい時もあきらめるなよと
咲き続けた
そのあと父は 町のはずれに
小さいけれども 新しい家を建てた
引っ越しの日が来て 沢山の思い出を
残して僕らは トラックに乗り込んだ
庭中紅いバラの花 手を振るように風に揺れた
あの青空
3.転宅
作詞:さだまさし
作曲:さだまさし
親父が初めて負けて 大きな家を払った
指のささくれ抜くみたいに 後ろ向きで荷作りをした
いやな思い出は皆 残してゆきましょうと
床の間の掛軸丸め乍ら かあさんが言った
丁度かくれんばで 息ひそめて
鬼の過ぎるのを待つみたいで
何も無くなった部屋では
おばあちゃんが 畳ふいてた
それから移り住んだのは 学校の裏通り
そこで初めて家で過ごす 親父の背中を見た
ひとつ覚えているのは おばあちゅんが我が子に
負けたままじゃないだろうと 笑い乍ら言ったこと
人生は潮の満ち引き
来たかと思えば また逃げてゆく
失くしたかと思えばまた
いつの間にか戻る
そのあと我が家はも一度 家を替わることになる
一番喜ぶはずの人は 間に合わなかったけれど
人生は潮の満ち引き
来たかと思えば また逃げてゆく
失くしたかと思えばまた
いつの間にか戻る
4.帰郷
作詞:さだまさし
作曲:さだまさし
疲れた時 見る夢は 故郷の夢
家に着いて扉を開けて そこで目が覚める
幼い頃 庭で遊んだ 犬の夢も見る
若い頃の 父と母に とても会いたい
今も あの海は 青く澄んでいるか
オリーブ色の風は 今日も吹いているか
あの橋を渡って 故郷へ帰ろう
君は手を離さずに 僕についてくるかい
子供の頃 夕陽を追って 岬まで行った
帰り道が 遠すぎて 泣いた事がある
今でもまだ 思い出す 家の灯(あかり)の色
疲れた時 故郷の 言葉が聴きたい
今も あの空は 島の影を写し
鳥たちは白い船を かすめて飛んでいるか
あの海を渡って 故郷へ帰ろう
君の手を離さずに ずっと歩いてゆこう
あの橋を渡って 故郷へ帰ろう
君は手を離さずに 僕についてくるかい
あの海を渡って 故郷へ帰ろう
君の手を離さずに ずっと歩いてゆこう
あの橋を渡って 故郷へ帰ろう
君は手を離さずに 僕についてくるかい
5.驛舎
6.Bye Bye Guitar(ドゥカティにボルサリーノ)
作詞:さだまさし
作曲:さだまさし
あんたがいなくなってから 片手程年を数えたね
もう泣きそうにならないで あんたを語れる歳になった
ボルサリーノ目深にかぶり
白いストラト ジェフ・ベック気取りで鳴らしてた
ドゥカティ転がして格好つけて
そのくせショートケーキで口の周り汚してた
俺たちみんな元気でいるよ
俺たちみんなバリバリだよ
そう聴かしてやるよ 心を込めて
あんたの知らない あんたの歌
Bye Bye Guitar 俺は歌い続けているよ
Bye Bye Guitar 旅の中で生命の限り
1カートンの煙草を 五日で燃やし乍ら
こうして歌を書いてる
ほんとうの事で正しいことを きつく言われると腹が立つもんだが
あんたに言われると素直に聴けた ほんとうにやさしかったからな
プライドの高い照れ屋のリベラリスト
アンダンテ・カンタービレ 妙に愛してた
あんたが教えてくれた事 笑いたきゃ
泣く事から学べってね
みんなあんたを好きだったよ
あんたがみんなを好きだった様にね
だから聴かしてやるよ 心を込めて
あの頃よりずっといい 俺の唄
Bye Bye Guitar 俺は歌い続けてゆくよ
Bye Bye Guitar ずっと味方でいてくれるんだろう
もう泣かずに あんたを歌う
そう そんな歳になった
Bye Bye Guitar 俺は歌い続けてゆくよ
Bye Bye Guitar 旅の中で生命の限り
7.精霊流し
作詞:さだまさし
作曲:さだまさし
去年のあなたの想い出が
テープレコーダーから こぼれています
あなたのためにお友達も
集まってくれました
二人でこさえたおそろいの
浴衣も今夜は一人で着ます
線香花火が見えますか 空の上から
約束通りに あなたの愛した
レコードも一緒に流しましょう
そしてあなたの 舟のあとを
ついてゆきましょう
私の小さな弟が
何にも知らずに はしゃぎまわって
精霊流しが華やかに始まるのです
あの頃あなたがつま弾いた
ギターを私が奏(ひ)いてみました
いつの間にさびついた糸で
くすり指を切りました
あなたの愛した母さんの
今夜の着物は浅黄色
わずかの間に年老いて 寂しそうです
約束通りに あなたの嫌いな
涙は見せずに 過ごしましょう
そして黙って 舟のあとを
ついてゆきましょう
人ごみの中を縫う様に
静かに時間が通り過ぎます
あなたと私の人生をかばうみたいに
8.ひとりぼっちのダービー
9.椎の実のママへ
10.銀杏散りやまず
作詞:さだまさし
作曲:さだまさし
春未だ浅き如月の 望月の頃君逝けり
来たれば還る生命にて 何ぞ悲しむ事やある
あの戦いを終へし折 我をば共に誘ひて
君が故郷に帰りしが 我が青春の始めにて
思へば君が妹の 吾が子の母となりてより
兄弟の契りもて 爾来(じらい)過ごせし半世紀
共に誇りし不器用の 生活(くらし)は楽にあらねども
吾俺(わいおい)のまた管鮑(かんぽう)の 友よ君の名を呼べば
桜 散りやまず
春風 黄砂 舞いやまず
我が涙 流れてやまず
桜 散りやまず
奇しくも八月十五日 君の御影を吾が子らと
精霊船に花火もて 送る事とは思はざり
君旅立ちし港より 敬礼をもて老兵の
送りし心届きしや 君終戦を迎へしや
時待たずして秋となり 我のみ歳を加へたり
未だ独り我戦場に 立つ老木の心地なり
共に笑ひし不器用の 青春遥か遠けれど
嗚呼 兄弟よ君の名を 誇りもて語る時
銀杏 散りやまず
秋風 紅葉 舞いやまず
我が思ひ あふれてやまず
銀杏 散りやまず
銀杏 散りやまず
秋風 紅葉 舞いやまず
我が涙 あふれてやまず
銀杏 散りやまず
11.広島の空
作詞:さだまさし
作曲:さだまさし
その日の朝が来ると 僕はまずカーテンを開き
既に焼けつくような陽射しを 部屋に迎える
港を行き交う船と 手前を横切る路面電車
稲佐山の向こうの入道雲と 抜けるような青空
In August nine 1945 この町が燃え尽きたあの日
叔母は舞い降りる悪魔の姿を見ていた
気付いた時炎の海に 独りさまよい乍ら
やはり振り返ったら 稲佐の山が見えた
もううらんでいないと彼女は言った
武器だけを憎んでも仕方がないと
むしろ悪魔を産み出す自分の
心をうらむべきだから どうか
くり返さないで くり返さないで
広島の空に向かって 唄おうと
決めたのは その時だった
今年のその日の朝も 僕はまずカーテンを開き
コーヒーカップ片手に 晴れた空を見上げ乍ら
観光客に混じって 同じ傷口をみつめた
あの日のヒロシマの蒼い蒼い空を思い出していた
In August six 1945 あの町が燃え尽きたその日
彼は仲間たちと蝉を追いかけていた
ふいに裏山の向こうが 光ったかと思うと
すぐに生温かい風が 彼を追いかけてきた
蝉は鳴き続けていたと彼は言った
あんな日に蝉はまだ鳴き続けていたと
短い生命 惜しむように
惜しむように鳴き続けていたと どうか
くり返さないで くり返さないで
広島の空に向かって 唄ってる
広島の空も 晴れているだろうか
くり返さないで くり返さないで
広島の空に向かって 唄ってる
広島の空も 晴れているだろうか
12.夢一匁
作詞:さだまさし
作曲:さだまさし
閑かな日だまりに並んだ ささやかな鉢植えの様に
老人たちは おだやかに吹いて来る 風を聴いてる
遠い昔のことの方が ずっと確かに憶えている
遠ざかる風景は何故か 初めて自分に優しい
生まれた時に母が 掌に与えてくれた
小さな宇宙だけがいつも 私の支えだった
こうして今すべてを越えて
しぼんだ掌に残ったのは
父の文字で おまえの命と書かれた
夢一匁
生まれ来た生命よ すこやかに羽ばたけ
悲しみの数だけをけして かぞえてはいけない
父と母が伝えた愛に 抱きしめられた子供たちよ
みつめてごらん その手に小さく光る
夢一匁
13.きみを忘れない~タイムカプセル~
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